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  「トホホな青春―― K 田と K 賀」

 人生には成人式や七五三などいろいろと通過しなければならない節目というものがあるが、体毛やワキ毛問題というのもそのひとつであろう。

 中2の時前の席に座っていたK田という男は「俺は毛深い男に憧れているんだ。特に手の指の付け根に毛が生えているのがセクシーだと思うんだ。」と切なげに告白し「ヒゲを剃るとヒゲが濃くなる」という原理を応用し、その当時発売されたばかりの母親のラブラブシェーバー(ワキ毛剃り)を使って指の付け根の産毛を毎日丹念に剃り続けたが、なかなか彼の思惑通りにはいかないようであった。

 (数ヵ月後彼はヘルニアを患い長期入院することになったが、めでたく退院した彼に対する我々の言葉は「おめでとう」ではなく、「で、手術の時の毛の処理はどうだった?」であった。脱腸ごときで命を落とすなど誰も懸念してはいなかった。「看護婦があそこの毛を剃ったのか」「ああ」「若かったのか」「ああ。大きいわねと褒められたぜ」しかしそれは病気による袋の膨張であって、真にポイントとなるのは棹の大きさであろう。)

 同時期に隣の席に座っていたK賀という男は特異なワキ毛の生え方に誇りと劣等感を持っていた。彼のワキ毛はまっさらの右の脇の下になぜか5センチほどの一本の毛がゆるやかなカーブを描きつつ、一族の死後一人生き残った優雅なヨーロッパの貴族という風情を示していた。我々はそのたった一本のワキ毛をサザエさんの父親にちなんで「波平ワキ毛」と命名した。しかし彼はそれを「栄光の一本」と呼び、体育の時間に着替える時は周囲に5,6人のギャラリーを集め、「栄光の一本」と叫びながら右のワキを誇らしげに観衆の視線に晒すのであった。それはちょっとした有名なイベントと化し、隣のクラスからもギャラリーが集まってくるほどであった。ある日戯れにギャラリーの一人がそのワキ毛を指先で引っ張ると彼のかけがえのないその毛はぷちっと引き抜かれてしまい、男子バレーボール部キャプテンである彼をたいそう落ち込ませた。しかし中3の4月になると「栄光の10本になった」と見違えるほど黒々となった脇の下を見せてくれるのであった。「順調に成長しているね」と彼と喜びを分かち合ったことは言うまでもない。

(2004・3・14)
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